振り飛車一筋・KYSの将棋ブログ

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西山女流三冠がNHK杯に登場 「石田流 vs 銀冠」で振り飛車党歓喜

NHK杯の楽しみの一つが、女流棋士の登場です。今年(2021年)度は、西山朋佳女流三冠が参戦。出場枠決定戦の観戦記は↓こちら。

昔はNHK杯での女流棋士というと、中盤あたりで早々に形勢を損ねて、あとは一方的にタコ殴り、なんてことが珍しくありませんでした。しかし、近年は女流棋士のレベルが上がったこともあり、そういうことは少なくなってきています。

戦型は西山三冠の先手石田流 ちょっと意外な展開

西山三冠の相手は八代弥七段。
うーん、言っちゃアレだが、これは相当勝ち目が薄いかなと……。

先手番を得たのは西山三冠で、初手から▲7六歩△3四歩。うーむ、ちょっと予想外の出だし。というのも、西山三冠のオハコといえば中飛車。先手番なら、初手▲5六歩で中飛車宣言かと思いましたが。

そして3手目に▲7五歩!

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おー、これはさらに意外。
▲6六歩~▲7八飛の三間飛車ではなく、石田流を志向するとは。さらに西山三冠は、▲6六歩と角道を止めずに▲7八飛と回ります(↓図)。

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一時期大ブームを巻き起こした石田流も、最近では居飛車の対策が進んでやや下火

この局面、△8八角成~△4五角(↓図)という手があります。

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一例として、▲6八金△2七角成▲7四歩△同歩▲5五角

序盤から乱戦になります。
ただ、西山三冠・八代七段とも、こういう展開は好みではないでしょうね。実際、穏やかな持久戦になり、八代七段は左美濃~銀冠に組みました(↓図)。

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居飛車穴熊よりも堅さでは劣るが、バランスは取りやすい

八代七段は、『石田流破り左美濃 徹底ガイド』という本を出版しています。石田流に左美濃で対抗するのは得意形で、そこに西山三冠は飛び込んでいくわけだけど、大丈夫かなあ……。

仕掛けた後の展開 不安定な振り飛車の7七桂をどうするか?

さて、お互いガッチリ組み合って迎えたのが↓図。

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ここまでに変化の余地もあった。▲7八金型から角交換を目指すとか

振り飛車の陣形は飽和状態に近いですね。対して居飛車は、△1二香から穴熊に組み替えるような順が残っています。このまま動かずに駒組みを続けると、振り飛車が作戦負けになりそうな感じ。

というわけで、振り飛車の西山三冠から▲7四歩と仕掛けました。

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5七角が8四飛をにらんでいる。それを活かした仕掛け

級位者の方向けに解説しておくと、この場面、先に▲7四歩と突き捨てるのがポイントです。

▲6五歩を突いて → ▲7四歩の突き捨てだと、△同飛と応じられます。以下、▲同飛△同歩と進むと、△7七角成が残ってしまいます(↓図)。

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▲6五歩の一手が入っていなければ、△7七角成が発生しないので振り飛車十分だが

さて、実戦では▲7四歩の仕掛けに対し、△同歩▲6五歩(飛車取り)△8二飛▲7四飛……と自然に進みました(↓図)。

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ここで選択肢がいろいろあるのだが

↑図から△7三歩や△7三銀と飛車成りを防ぐのでは、▲7六飛とされて居飛車不満。八代七段、飛車成りを受けずに△8六歩▲同歩△同飛と反撃します(↓図)。

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お互いに飛車が敵陣に成り込む展開になりそう

そして、↑図から▲7二飛成△5三銀と進んだ↓図が考察したい局面。

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個人的には、ここが急所の場面その1だったと思う

この局面、振り飛車の懸案事項は「7七桂が不安定なこと」です。具体的には、どこかでダイレクトに△7七角成と取られそう。そこからさらに△9九馬~△3三馬のように大活躍されると、これは振り飛車が勝てません。

現在は7二龍がいるので桂馬は取られませんが、逆に言うと、7七桂が不安定なせいで、龍の動きが制限されているわけ。というわけで、桂馬の不安定さを解消するために、▲7八歩と打つのがよかったかもしれません(↓図)。

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感想戦でも検討されていた。この一手でグッと安定度が増す

こうしていったん足元を固めておき、次に▲8二歩からの攻めを狙います。振り飛車の理想としては、桂香を回収してから → ▲9三角成~▲5七馬。まあ、そこまでは実現しないでしょうが。

▲7八歩以下は、△8八飛成▲8二歩△9三桂▲8一歩成△7六歩……が想定される進行です。

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①▲同銀なら△7八龍▲6八金△7七龍、②▲同龍なら△8六歩。いずれも難しい

中盤の攻防 △7六歩が入った時点では居飛車優勢

実戦の進行は、西山三冠が▲6四歩と▲5五歩の突き捨てを入れて、↓図のようになりました。

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八代七段、攻めを急がずに歩を取る。落ち着いた指し回し

↑図は、どこかで△5六歩があるので振り飛車に苦労が多そうです。やはり7七桂の不安定さが目につきます。そして数手後に実現したのが↓図。

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あちゃー

この△7六歩は痛いですね。▲同龍は△同飛▲同銀△7七角成とされて論外。よって▲同銀と応じたいのですが……(↓図)。

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銀が守備陣から離されたのは痛い

ここからすぐに△7七角成と飛びつくと、▲6五銀! という切り返しがあります(↓図)。

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7二龍によって7七の馬取りになっている。以下、△3三馬▲5四歩と進むと、ちょっと居飛車ヤな感じ

ですので、△7七角成ではなく、ジッと△8八飛成とします。以下、▲9一と△7七角成に、やはり▲6五銀と大技を出しますが……(↓図)。

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振り飛車の狙いは▲7七龍~▲5五角の王手飛車だが

ここで△6六桂の切り返しが絶好です(↓図)。これは振り飛車勝てないでしょう。

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▲5五角の筋を防ぎつつ金取り。ピッタリ攻防の一手

というわけで、総括すると、△7六歩と打たれた局面(↓再掲図)は、振り飛車が苦しいと思います。

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居飛車の飛車・角・歩が効率よく連動した攻め

八代七段の快勝 西山三冠は今後に注目

他にも気になる局面はありましたが、考察はここまでにしましょう。

結果ですが、八代七段が快勝です。ちょっと苦しい場面から、なんとか打開しようと動く西山三冠。対して八代七段、特にひねった手はなく、自然な手の積み重ね。

うーん、これはアカン展開や。
一方的に差がどんどん開いていくやつや……と思っていたら、その通りになってしまいました。西山三冠、ちょっとチャンスが作れなかったですね。

ところで、西山三冠は2021年4月に、奨励会を退会して女流棋士になることを発表しました。三段リーグを突破してプロになることは叶わなかったわけですが、プロになる道が完全に断たれたわけではありません。

アマチュアや女流棋士がプロ棋戦で優秀な成績を収めた場合、プロ編入試験が受けられるのはご存じでしょう。本局では完敗でしたが、西山三冠、昨年(2020年)度は竜王戦や棋聖戦で連勝するなど、じゅうぶんな力を持っています。そのうち、規定の成績を満たし、編入試験の受験資格を得られる日が来るのではないでしょうか。

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