「攻撃的な振り飛車」というキーワードで多くの方が思い浮かべるのは、石田流ではないでしょうか?
昭和から平成にかけて振り飛車は研究が進み、かつての「居飛車に攻めさせてのカウンター狙い」から「自分から攻めて主導権を握る」へと変貌していきました。もともと攻撃的要素が強かった石田流も、その流れの中で大いに研究が進みます。
石田流の本もいろいろと出版されるようになり、今回レビューする『石田流の極意』も、その中の一冊です。
「先手・石田流 vs 後手・居飛車」の入門書
この本は、ある程度将棋を指せるようになった人が、石田流の入門書として使うのにちょうど良いと思います。先手番で▲7六歩△3四歩▲7五歩と指し、相手が居飛車で対抗してきたときの指し方を解説しています。
逆に言うと、それ以外の状況、たとえば「相手も振り飛車で相振りになったら?」「自分が後手番のときはどうすれば?」などには触れていないので注意。そのあたりは他の本で補う必要があります。
とはいっても石田流を指すなら、まずは「先手・石田流 vs 後手・居飛車」という基本の形を覚えるのが先決。相振りとか後手番とかの解説を省いたのは、別にマイナス評価にならないと思います。
入門書ということで、レベルとしては級位者向け。初段くらいまでなら、この本の内容でじゅうぶん戦えます。
有段者になると、この本だけでは苦しい。もう少し詳しい他の本で知識を補う必要があります。とりあえずこの本で石田流に入門し、苦しくなってきたら詳しい本にステップアップすればよいでしょう。
第1章 ▲7四歩の超急戦
詳しい内容紹介にいきましょう。
第1章は超急戦。
↓図をご覧ください。
居飛車が早めに△8五歩と伸ばしてきたところです。昔はここから▲4八玉が一般的でしたが、それではおもしろくないと結論。
そこで登場したのが▲7四歩とソッコーで攻めかかる超急戦(↓図)。
第1章は、ここからの攻防を解説しています。まあ昔から現在に至るまで、石田流に対して早めに△8五歩と伸ばしてくる居飛車党は少ないので、そもそもこの局面の出現率は低いのですが……。
私も石田党だった頃、実戦で▲7四歩の超急戦が実現したのは一度しかありません。
第2章 棒金
第2章は、居飛車が棒金で対抗してきたときの指し方。△7二金~△8三金と、金を前線に繰り出してきます。
うーむ、確かに昔は棒金を指してくる輩がそこそこいましたが、2020年現在、棒金を使ってくる奴なんているのか? という気はします。というのは、石田流対策が整備され、棒金なんぞ使わなくても、居飛車がスマートに戦える手段が増えたからです。
まあそのへんの歴史はさておき、石田流は棒金の圧力から逃れるため、▲7八飛と引くのが基本です。本書でも、「△8三金の瞬間に▲7八飛」の手法を解説しています。
第3~4章 左美濃と居飛車穴熊
第3~4章は持久戦。
左美濃(天守閣美濃)と居飛車穴熊が相手です。石田流に対して、居飛車は持久戦を志向するケースが多いので、本書のメインとなる部分でしょう。
対左美濃と居飛車穴熊、いずれも石田流本組で対抗する指し方を説明しています。石田流入門者にとって、変にひねった順もなく、自然な感じで指せるのがセールスポイントです。
ただし、居飛車が一直線に穴熊に組んできたときに限り、本組では難しいと結論し、▲7八金からの速攻を解説しています。
第5章 角交換型・右四間・銀冠
第5章は、その他の戦法を3つ解説。
まず、居飛車が早々に角交換してくる形。
続いて、対右四間飛車。
最近、エルモ囲いとの組み合わせで人気ですね。
そして最後に銀冠。
堅さと手厚さのバランスが良く、プロの実戦例も多いです。
この3つを一つの章にまとめていることからおわかりのように、それぞれサラッと触れているだけです。2020年現在、右四間と銀冠は“石田流キラー”になっていることもあり、本書の知識だけでは薄いので、類書で補足した方がよいでしょう。
著者の鈴木大介九段は「升田幸三賞」の受賞者
著者は鈴木大介九段。
石田流(というか振り飛車全般)の定跡整備に多大な貢献をした棋士です。
第1章の▲7四歩超急戦は鈴木九段の創案で、この▲7四歩は、新手・新戦法を対象とした「升田幸三賞」を受賞しています。振り飛車党の私が尊敬する棋士の一人です。
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