振り飛車一筋・KYSの将棋ブログ

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NHK杯で青嶋六段の「端歩位取り穴熊」 不発だったが見応えある一局

青嶋六段の四間飛車穴熊が見たいんじゃぁー!

2022(令和4)年6月12日、私はNHK杯将棋トーナメントを朝から楽しみにしていました。登場するのは青嶋未来六段。四間飛車穴熊を代名詞とする個性派棋士です。

相手は三浦弘行九段。言わずと知れた居飛車党の大家です。この対戦カードなので、居飛車 対 振り飛車になる確率は低くないと予想していました。あとは青嶋六段がどこに飛車を振り、どのように玉を囲うか。

青嶋六段は三間飛車 + 端歩位取り穴熊に

注目の戦型ですが、先手・三浦九段の居飛車 対 後手・青嶋六段の三間飛車になりました(↓図)。

Oh……

いや、まあ実際、青嶋六段の四間飛車の採用率は高くないです。振るなら三間、囲いはミレニアムが多い印象なので、四間飛車穴熊の確率は低いと思っていました。

しかし、視聴者の期待は裏切らない青嶋六段。囲いは美濃やミレニアムではなく、穴熊を選択してくれました(↓図)。

アマチュアが大好きな相穴熊戦に

この形のポイントは、振り穴側が端の位を取っていることです。振り飛車が玉側の端歩を突き越す → 居飛車は穴熊を目指す → それを見て振り飛車も穴熊に。こういう流れで図の局面になりました。

これは「端歩位取り穴熊」と呼ばれる構想で、20年くらい前からあります。元は四間飛車の一戦法で、序盤早々、端歩を突き越す藤井システムから派生して生まれました。四間飛車は藤井システムを見せて端歩を突き越す → 居飛車は穴熊を目指す → それを見て四間飛車穴熊にする……という流れです。

三間飛車穴熊の序盤のポイントは? 左金をどう寄せるか

四間飛車と三間飛車の違いはあれど、端歩位取り穴熊が登場してくれてテンション爆上がりの私です(笑)

さて本局、序盤のポイントを私なりに解説します。

三間飛車穴熊で悩ましいのが、左金の寄せ方です。具体的に言うと、4一金を ①△5二金と上がるか ②△5一金と下段を這っていくか。この二択が難しい。

本局では青嶋六段は①△5二金左を選択

どちらが良いかは、ケースバイケースとしか言いようがないですね。それぞれ一長一短があり、居飛車の動きを見ながら選択することになります。メリット・デメリットを表にまとめます。

居飛車はゆっくりした展開を避けるべき

次に、居飛車側から見たポイント。簡単に言えば、「ゆっくりした展開にはするな」です。

振り飛車側は序盤で2手かけて端の位を取り、さらに穴熊に組むので、どうしても立ち遅れます。しかし、超持久戦になってしまえば、立ち遅れは帳消しにできます。

そして、端の位の存在は大きいです。振り穴にだけ端攻めできる権利があり、最終盤で端へ逃げ込むスペースもある。

つまり、淡々と組み合って「先後同形・ミラー」のような相穴熊戦にすると、居飛車が損な展開になりやすいのです。それを避けるため、ある程度のところで動く必要があります。

はたして三浦九段、青嶋六段の振り穴が完成する前に、▲5八飛と開戦の構えを見せました。これは理に適っています。

次に▲5五歩から銀を捌ければ、陣形の中途半端な振り穴側が苦労する

本局、青嶋六段の端歩位取り穴熊はやや欲張った構想に感じましたが、それを上手く咎めたのが▲5八飛だったと思います。青嶋六段は考慮時間を投入して△4三金と上がりましたが、とても予定通りとは思えず、不本意な展開でしょう。

三浦九段が踏み込みすぎて形勢を損ねたか?

三浦九段が機敏に開戦してペースを掴みました。青嶋六段、不利とまでは言えないものの、苦労が多すぎる展開。そして迎えたのが↓図。

いったん飛車が逃げておいて居飛車じゅうぶんだなぁ……と思っていたら、三浦九段は▲5四同飛とぶった切り、△同金▲4三銀と決戦に出ました(↓図)。

以下、△6四金▲3二銀成と進んだ。4三の僻地にいた金が、攻防に効きそうな6四に移動した

うーん……? これはどうだったか。居飛車が苦しい局面なら、もちろんこうやって喰い付くべきでしょう。が、現状そこまで過激な踏み込みが必要な形勢か?

青嶋六段、自信ありげな手つきで△5九飛と打ち下ろします。ここまで指し手に苦慮していましたが、左辺の飛車・金を都合よく処理できて、急に元気の出る展開になりました(↓図)。

△1九龍と指したところ 実戦の進行以外の順を考える

ここから、青嶋六段の好調な指し手が続きます。

△6七歩▲同金のタタキで金を上ずらせ、△4五角と攻防の位置にセット。桂馬を回収してド急所の位置に△7五桂と打つ。これは振り穴が有利になったかと(↓図)。

△7五桂に三浦九段が▲7八角と打った場面。粘りある手だが、これでは苦しい

↑図から、青嶋六段は△3三桂で成銀を取り返して戦力補充。少し進んで三浦九段が▲6一とと入った場面。居飛車の攻め形が重く、振り飛車に攻めのターンが回ってきています(↓図)。

青嶋六段は歩切れなので、細かい攻めが効かないのが難点ではあります。ここで△1九龍とジッと香車を回収しましたが、▲5六歩と角筋を遮断されました。

△1九龍は、欲を言えば何かで龍を追われたときに手順に指したい手ですね。

他の候補手を挙げるなら、普通に△6七桂成と金を取る手でしょうか。①▲同銀なら△5七金と貼り付く(↓図)。

①▲6八歩なら△5九銀と追撃 ②▲5六歩なら△6八銀とつなぐ いずれも歩が入手できそう

△6七桂成に対して②▲同角なら、△5六銀と打ってどうでしょう(↓図)。

▲同角△同角▲6七銀打なら△4七角成で手厚い。以下▲7六桂なら△3七馬

もし↑図で▲8五角と逃げたら、△5七銀成(タダ捨て!)▲同銀△7八金と迫って受けにくそうです(↓図)。

NHK杯のような時間が短い棋戦だと、正確に受け続けることは難しそうです。実戦の進行以外に、こういう順も有力だったかと思います。

痛恨の失着 一瞬で攻守逆転! 青嶋六段無念

さて本譜。△1九龍▲5六歩△8四香と進み、無難な▲1一龍などでは苦しいと見たか、三浦九段は▲6六金! という勝負手を繰り出しました(↓図)。

居飛車は次に▲7五金△同金▲6四桂を狙っていますが、金が上ずっていかにも危険な雰囲気。何か決め手がありそうです。

しかし、いかんせん時間がない。青嶋六段は△5四角と指しましたが、これが痛恨の失着。▲7五金△同金▲6四桂で攻守逆転(↓図)。あばばばばばば!

居飛穴への攻撃のとっかかりが無くなってしまった

ド急所に打った△7五桂は、結局、居飛穴に何らダメージを与えられず。逆に、三浦九段に取られて▲6四桂を与えてしまう皮肉な展開に。以下は、攻めに転じた三浦九段が手堅く押し切って2回戦に進出しました。

△5四角と指したところは、自然に△8七香不成くらいで優勢を維持できていたようです(↓図)。

歩切れを解消できるのが大きい。▲8七同銀なら△5七銀という筋がある

というわけで、青嶋六段(と振り飛車ファン)にとっては残念な結果に。しかし、見応えのある相穴熊戦に大満足した日曜のひとときでした。また来期に期待しています。

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