振り飛車一筋・KYSの将棋ブログ

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藤井二冠タイトル初防衛の一局 渡辺三冠が逃した▲7四銀とは?

2021(令和3)年7月3日、棋聖戦第3局・渡辺明三冠 vs 藤井聡太二冠。私と妻は、二人三脚で観戦していました。

妻がスマホで中継を見て、「藤井君指したよ~。○○だって」と私に指し手を伝える。私は将棋盤に並べた駒を動かし、自分なりにウンウン考える。

今の中継では形勢判断や推奨手が画面に表示されますが、将棋に詳しくない妻は、そういうのがあった方がいいタイプ。対して私は、そういうのは興醒めするタイプなので、指し手だけ知りたい。

私と妻、うまくやってるでしょう(笑)

▲7四銀を逃して形勢がひっくり返った?

さて、AI判定だと、↓図までは渡辺三冠が優位に進めていたようです。

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中継を見ていた妻いわく、↑図でのAI推奨手は▲7四銀だったとのこと。実戦では渡辺三冠は▲2二角成と指しましたが、ここで形勢がひっくり返ったそうです。

うーん、ここで▲2二角成はソッポに行くので、確かに感触が良くないですね。藤井玉を追い詰めてから、最後の最後に▲2二角成で一枚補充して勝ち、というタイミングで指せれば理想なんですが……。

それはともかくとして、実戦では出なかった▲7四銀という手について考察してみます。

▲7四銀以下の順を考察

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↑図は、渡辺三冠が▲7四銀と指していたら? という仮想図。

この▲7四銀は詰めろです。
たとえば△5四歩と金を取っても、▲7三銀成△同玉▲7一飛△8三玉▲7二飛成……以下の詰みです(↓図)。

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△9四玉に▲9五銀△同玉▲9六歩△8六玉▲7六龍まで

ですので、▲7四銀と打たれたら、まあ普通は△7四同飛と取りますよね(↓図)。

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さて、↑図で先手には選択肢が二つあります。

  1. ▲5三角成
  2. ▲6三銀

▲5三角成は先手が負ける

まず▲5三角成ですが、結論から言えば、これは先手が負けだと思います。

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↑図以下、△7三玉▲6三馬と迫って……(↓図)

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↑図で△8二玉と逃げたとします。これで後手玉は詰みません。ですので、先手は▲7四馬と飛車を取り、後手玉を受けなしに追い込む(↓図)。

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先手は自玉が詰まなければ勝ちだが……

しかし、↑図のように進めると、ここで先手玉が詰んでしまいます。手順は△7八角▲5九玉△7九龍▲4八玉△3六桂です。

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↑図以下、
①▲5七玉は△6六金▲同歩△5六銀でピッタリ
②▲3八玉は△2九龍以下
③▲3七玉も△3九龍▲3八飛△同龍▲同玉△2八飛以下

③の変化が重要で、△3九龍と回られたときに何を合い駒してもダメなんですよ(↓図)。

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↑図で▲3八歩や▲3八銀の合い駒(=ヨコに効かない)は、△2八龍と入り込まれて詰み。よって△2八龍を防ぐために、▲3八飛と合い駒するしかありませんが、それも△同龍~△2八飛でダメ。

なお、仮定の話ですが、△3九龍と王手されたときに▲3八金と合い駒できたとしても、△同龍~△2八金で詰みですね。

▲6三銀が正着か? 対して△7三玉は先手勝ち

分岐の場面に戻りましょう。先手の▲7四銀に対して、後手が△同飛と応じたところです。

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再掲図

↑図から▲5三角成の攻めだと、後手玉は詰まず、先手玉が詰まされてしまいました。というわけで、ここでは▲6三銀と打つ方が有力そうです(↓図)。

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まず、▲6三銀に対して△7三玉と上に逃げる手を検証します(↓図)。

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上に逃げるのが常道だが

これに対しては、▲7二桂成△8三玉▲7四銀成とします(↓図)。

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↑図で①△7四同玉は▲7三飛と打って詰みですね。
②△7二玉は後述しますが、先手の勝ち。

よって③△9四玉と逃げるしかありませんが、それは▲9六飛と打って詰み(↓図)。

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飛車の王手に対しては、合い駒するしかありません。角・金・銀、いずれを合い駒されても▲同飛と取り、△同玉▲9六歩△8六玉と進めます(↓図)。

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↑図で
①角を持っていれば、▲9五角△8五玉▲8四成銀△7五玉▲5三角成で詰み
②金 or 銀を持っていれば、▲5三角成△7七玉▲6八金(銀)打△7六玉▲7五馬まで

いずれも、▲5三角成がピッタリですね。

▲6三銀には△7一玉だが▲2二角成が詰めろ逃れの詰めろ

話がややこしくなってきました(^^;)
ここまでの流れを整理すると、

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再掲図

↑図は▲7四銀と打った場面。
対して△5四歩などと金を取るのは▲7三銀成で詰み。

よって▲7四銀は△同飛と取る。
対して、▲5三角成の攻め方では先手負け。▲6三銀と打つ方が有力で、これに対して△7三玉と上に逃げるのは先手勝ち。

……というわけで、▲6三銀には△7一玉と下段に落ちるしかありません(↓図)。

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初手から整理すると、▲7四銀△同飛▲6三銀△7一玉と進んだ場面

↑図で▲7四銀成などとやると、先ほど出てきた筋ですが、△7八角と打たれて詰み。ここは先手玉が詰めろになっているのですね。

しかし、ここで▲2二角成が「詰めろ逃れの詰めろ」です。

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▲2二角成は、次に▲7二金と打って後手玉を詰ます手を見ています。さらに、相手が△7八角▲5九玉△7九龍▲4八玉△3六桂と攻めてきても、▲5七玉と上がって詰みません(↓図)。

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2二馬がいなければ、△6六金▲同歩△5六銀で詰むのだが

これが詰めろ逃れの詰めろの意味です。
うーん、よくできてるんだよなぁ。

【補足】他にも▲2二角成が詰めろ逃れの詰めろになる変化が

先ほど「解説は後述」と書いた場面でも、▲2二角成が詰めろ逃れの詰めろになって勝ちだと思われます。最初の図から……

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再掲図

▲7四銀△同飛▲6三銀△7三玉▲7二桂成△8三玉▲7四銀成(↓図)。

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この手に対し、△同玉と△9四玉はいずれも詰み。先ほど解説済

↑図から△7二玉と成桂を取る手に対し、▲6三金△8一玉▲6一飛(合駒請求)△7一桂▲2二角成。

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途中▲6一飛の王手で△7一桂と持ち駒を使わせる(=合駒請求)のが大事。これをやらないと△5七桂でトン死する

やはり後手玉に詰めろを掛けながら、先手玉を詰まなくするピッタリの一手。相手が△7八角▲5九玉△7九龍▲4八玉△3六桂と攻めてきても、▲5七玉でセーフ……と先ほど解説しましたね。

こういう順があるので、先手(渡辺三冠側)が行けそうな気はします。が、他にもいろいろ脇道の手順があって非常に難解です。たとえば、▲7四銀の瞬間に△7八角▲5九玉の交換を入れておき、9六の地点に効かせておくとか。

これ以上の検討は私のキャパを超えているので(笑)、今回の記事はここまでにします。

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