居飛車穴熊さえ克服できれば、三間飛車は最強の戦法になりうる
かつて『島ノート』という本に記されていた文言です。しかし、実際は居飛車穴熊に対して有効な機軸を打ち出せなかったことから、少なくともプロ棋界では、三間飛車は“消えた戦法”になっていました。
近年復活の三間飛車 そして見直される急戦
ところが、ここ数年で有効な居飛車穴熊対策──トマホークや三間飛車藤井システム──が生まれたことから、三間飛車が復活してきています。
2021年現在、三間飛車を指す人は、自分なりに「コレだ!」という居飛車穴熊対策を持っていると思って間違いありません。居飛車からすれば、三間飛車に対して穴熊に組みに行くのは、相手の研究にハマる危険があるわけです。
そこで見直されているのが急戦。急戦ならば、居飛車が主導権を握って戦えます。
しかし、居飛車急戦 vs 三間飛車という形が長年廃れていたこともあり、解説本の存在自体がレア。あったとしても、三間飛車の目線から解説した本(=中田功八段著『コーヤン流三間飛車の極意』とか)だったりします。つまり、「居飛車が急戦で三間飛車を撃破する」というニーズを満たしてくれる本は、ほとんどありませんでした。
最近、ようやく『エルモ囲い急戦』『とっておきのエルモ』といった、三間飛車に急戦で挑む本も出てきました。が、これらは変化球的な形や手順も多く、肌に合わない人もいるのではないでしょうか?
昔ながらの舟囲い急戦で三間飛車を撃破したい──そんな居飛車党の思いに応えてくれる本が、今回紹介する『先手三間飛車破り』です。
この本、古いです。
なにせ出版が1988(昭和63)年ですから、30年以上前の本ですね。しかし、居飛車急戦 vs 三間飛車は長年廃れていたせいで、平成の30年間で定跡がそれほど進展しなかったため、令和の現代でも立派に通用します。
本のタイトルは『先手三間飛車破り』ですが、まずは後手三間の攻略から始まります。後手三間の攻略法を示したうえで、次に先手三間の攻略に取り掛かる、二段構えの内容です。
- 後手三間と先手三間では、何が違うのか?
- なぜ後手三間と同じ手順では、先手三間を撃破できないのか?
- では、先手三間を攻略するための工夫とは?
このあたりの流れが理論的に解説されています。研究手順が惜しみなく示されており、情報量は多いですが、本の構成が良いので読みやすく、情報が頭に入ってきやすい。失礼ながら、昭和の時代に、内容・構成ともにこれだけ高レベルの棋書が出版されていたことに驚きです。
内容は、かなり詳しい部分まで解説していることから有段者向け。級位者が読破するのは難しいでしょう。
早めに△4三銀と上がる令和三間飛車には急戦が有力
具体的な内容紹介にいきます。
前半部分は、後手三間の攻略です。
三間飛車というと、昔は△4二銀(先手なら▲6八銀)の形で駒組みを進めるのが一般的でした。
しかし、近年の三間飛車は居飛車穴熊攻略を意識しているため、早々に△4三銀と上がる構えが多いです。具体的には、早めに△4三銀と上がる形が、トマホークや三間飛車藤井システムに必要なのですね。
しかし、三間飛車が早めに△4三銀と上げる形は、居飛車から▲4六歩~▲4五歩と急戦を仕掛ける順が生じます。本書では、その仕掛けもキチンと解説されています。
このあたりの内容は、早めに△4三銀と上がる令和三間飛車に対して参考になります。昭和の棋書が、めぐり巡って令和時代でも役に立つ。なんだか、時代がループしているような不思議な感じです。
先手三間に対するさまざまな作戦を解説 好みのものを選ぼう
前半で対・後手三間の説明を終えると、後半は本題である先手三間の章。
まず、先手三間のときは、後手三間と同様の仕掛けではうまくいかないことが解説されます。そのうえで、先手三間に対する急戦策をいくつか紹介しています。
このように、たくさんの作戦が紹介されているので、好みのものを選べます。
「後手番で急戦」という、多少欲張った構想なので、大丈夫なのか心配な人もいるかもしれません。しかし、少なくとも居飛車が互角以上の展開には持ち込めます。居飛車急戦党は、自分の肌に合った作戦を一つ見つけて、それをブラッシュアップすればよいでしょう。