突然ですが、藤井システムというと、どんな戦法をイメージしますか?
「あれでしょ? 振り飛車(特に四間飛車)が居飛車穴熊に組ませないよう速攻を仕掛けるやつ」
その通りです。
藤井システムといえば、対居飛車穴熊用の戦法として、あまりにも有名ですね。
ただ、「藤井システム = 対居飛車穴熊」という理解は間違いではありませんが、不十分です。実は藤井システムと名の付く戦法には、対左美濃(天守閣美濃)用のものも存在することはご存知でしょうか? つまり、藤井システムには「対居飛車穴熊用」と「対左美濃用」の二つがあるということです。
このうち「対左美濃・藤井システム」を解説した本が、今回レビューする『藤井システム』です。
藤井システムと名が付いてはいますが、穴熊攻略本ではなく左美濃攻略本です。もし古本で購入する機会があれば注意してください。
プロでは「消えた戦法」だがアマチュアでは残っている
本のレビューの前に、左美濃(天守閣美濃)の歴史について触れておきます。
左美濃は、かつて居飛車穴熊とともに、四間飛車を絶滅寸前にまで追い込んだ戦法です。居飛車穴熊が右の本格派だとしたら、左美濃は左の技巧派でしょうか。対四間飛車の二枚看板・ダブルエースですね。
四間飛車側は苦戦の時期が続きましたが、まず左美濃攻略法を編み出します。それが本書で解説されている「対左美濃・藤井システム」です。この指し方は非常に優秀で、プロでは左美濃が絶滅したほど。
逆に言うと、「対左美濃・藤井システム」を知らないと左美濃退治は困難です。アマチュアでは左美濃がまだ残っており、その対策として四間飛車党が読んでおくべき一冊が本書です。
ずいぶん昔の本(1997年出版・2002年に文庫化)ですが、四間飛車 vs 左美濃に関しては定跡の進歩が止まっているため、2020年現在でもほとんど通用します。
対四枚左美濃 完成された手順はまさにシステム!
具体的な内容紹介に移りましょう。
第1章は、↓図のような▲7七銀引と構える四枚左美濃の撃破がテーマです。
何がすごいって、恐ろしく深いところまで研究され、手順がしっかり体系化されているところ。「こんな感じで指せばいいよ」というアバウトな解説ではありません。一手の差・一歩の差といったギリギリのところまで妥協せず研究され、四間飛車側の手がピッタリ間に合うよう、計算され尽くしている。
ここまで深く研究し、それを体系化した著者には脱帽です。まさに「システム」の呼び名がふさわしい。
……という感じで、かなり細かい部分まで説明されているので、初段くらいの力はないと内容を消化するのは難しいかも。
対急戦左美濃 四間飛車が少し間違えると居飛車の術中にハマる
第2章は、左美濃が急戦を仕掛ける順。
↓図のように▲3八飛と回る構想です。
ここから▲3五歩と仕掛けてくる順だけではなく、▲6六歩や▲5五歩といった変則手にも触れています。また、急戦模様から一転して四枚左美濃を狙ってくる順も解説。
もちろん対策は用意されており、四間飛車は互角以上に戦えます。やはり手順がしっかりと体系化されているところはすごい。
ただし、四間飛車側に綱渡り的な手順が多く、一手間違えると、たちまち左美濃が優勢になる順が少なくありません。
そういう意味では、逆に居飛車党が四間飛車を撃破するために使えそうです。先ほども書いたように、四間飛車側に綱渡り的な手順が多いので、居飛車側は研究を突き詰めてしっかり覚えておけば、四間飛車側が間違えてくれる可能性は高いです。
実戦編の内容もグッド 講座編の補足的要素が強い
最後を〆るのは、著者自身の実戦を解説した実戦編。この章も良いです。
戦法解説本の実戦編って、講座編と内容がかけ離れていることが少なくありません。しかし、この本で紹介されている実戦編は、講座編の補足という色合いが濃く、高ポイントです。
たとえば、一手早く組むために居飛車が▲5八金右を省略した「一段金左美濃」に組んできた場合。これにはどう対応するか?
また、藤井システムの弱点である桂頭を狙った仕掛けを知っていますか? 知らないと、指されたときに負けますよ。
こうした居飛車側の工夫に対しても、振り飛車側は対策があるんだぞ、というのを示してくれるのが実戦編です。
藤井六段の研究量と体系化に同業者のプロも唸った!
著者は藤井猛九段。
まだ若手だった六段のときに、処女作として出版したのが本書です。
本書で記された対左美濃の研究量と体系化は、同業者のプロも唸らせました。藤井六段の研究のすごさはプロ間でも知れ渡り、当時は「藤井の研究範囲に飛び込まないように」と警戒されていたらしいですね。
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