振り飛車一筋・KYSの将棋ブログ

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穴熊感覚に磨きをかける一冊『とっておきの相穴熊』

将棋の本は数あれど、『とっておきの相穴熊』ほど珍しい本は、なかなかありません。

この本、二重の意味で珍しいです。一つは、相穴熊というニッチなジャンルに特化した本である点。

もう一つは、プロとアマの共著である点。「穴熊王子」の異名をとった広瀬章人五段(当時)と、アマチュア屈指の穴熊の使い手・遠藤正樹さんがコラボして書かれた本です。本の中では、遠藤アマが聞き手として広瀬五段に質問するところもあれば、双方が自分の意見をぶつけ合うところもあります。

プロとアマ、立場は違えど、相穴熊というキーワードで結び付いた二人が生み出した名著です。

現代将棋で穴熊に無縁な人はいないはず

令和の現代においては、「堅さよりバランス」の風潮が強いので、堅さの象徴である穴熊の採用率は以前より下がっています。よって、双方が穴熊に組む相穴熊は、出版当時(2009年)よりもさらにニッチなジャンルといえます。

では読む価値が低い本かというと、答えは「否」。本書で得られる知識は、相穴熊戦でないと活用できないものではなく、たとえば四間飛車美濃 対 居飛穴のような“片穴熊戦”でもじゅうぶん応用が効きます。

現代将棋において、居飛車党・振り飛車党問わず、まったく穴熊に無縁という人はほとんどいないでしょうから、穴熊について学べる本書は、読んでおいて損はありません。

ただし、本書のレベルは間違いなく有段者向け。級位者は手を出さない方がいいです。

第1章 相穴熊の代表的な形を解説

第1章は、相穴熊の定跡のおさらい。具体的には、以下の3つの戦型を取り上げています。

  • 四間飛車穴熊5二金型
  • 四間飛車穴熊6一金型
  • 三間飛車穴熊

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四間穴5二金型・振り穴側は△6一飛と一段飛車にするのが有力

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四間穴6一金型・5三の地点は薄いが金の連結は良い

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三間穴・まだ金をくっつけない段階から高度な駆け引きが出てくる

いずれも相穴熊では人気の形。
これらの局面から、「どのような方針で指す?」「次の一手の候補は?」「その手を選んだ場合、どんな展開が想定される?」といった点について、広瀬五段と遠藤アマが互いの見解や読み筋を披露し、意見をぶつけ合います。

ただし、2021年の目から見ると情報が古い部分があるかもしれませんので、アップデートは必要でしょう。

第2章 相穴熊の終盤戦を解説

第2章のテーマは、相穴熊での終盤戦。具体的には、居飛車と振り飛車双方を同じ陣形にした「ミラー」の状態(↓図)から相手陣を切り崩す、というのを数局解説します。

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  • ▲8六香を先手で打つ
  • 歩を垂らしてと金を製造する
  • ▲3五角と攻防のラインに据える
  • 9筋からの端攻め

このように、穴熊攻略のお手本がたくさん出てくるので、非常に勉強になります。また、単に指し手を羅列しているのではなく、「上から揺さぶって穴熊が弱体化したので、今度は横から攻める」「このラインが急所なので先着できれば優勢」のように解説されており、読んでいて「なるほど」と納得が得られやすいです。

第3章 実戦図を題材にして相穴熊のコツを紹介

第3章では、実戦で生じた図を題材にして、相穴熊のコツを示します。相穴熊の実戦図(テーマ図)が26ほど用意されており、それぞれの局面について、広瀬五段と遠藤さんが読み筋を披露。

テーマ図からの具体的な次の一手、その指し手を選ぶ理由、その先の読み筋、優劣の判断、避けなければいけない形……。

こうしたトークが広瀬五段と遠藤さんの間で交わされ、それを読むうちに読者は相穴熊のコツがわかってくる、という内容です。二人のトークですが、

遠藤さんが自らの読み筋を披露 → 広瀬五段が「それはこう指されるとマズいですね」とダメ出し → 遠藤さん「うーん、どうすれば」 → 広瀬五段「これでどうでしょう^^」 → 遠藤さん「おおーなるほど!」 → 広瀬五段「この形の急所はココです^^」

……という展開が多いです(笑)

この第3章はおもしろいです。
穴熊戦でのエッセンスがバンバン出てきて、読んでいるだけで強くなった気がします。広瀬五段の切れ味鋭い読みに、「プロってすげぇ」と感嘆すること請け合い。まあ、難しくて内容を咀嚼できなかったとしても、眼の保養にはなります(笑)

仮に1~2章がなく、この3章だけの中身だったとしても“買い”だと思います。

相穴熊は細かく神経を遣う繊細な戦法

本の内容紹介は以上です。

最後に、相穴熊に関して、私なりの意見を一つ。

相穴熊というと、「お互いが堅陣に囲い合って、あとは派手にドンパチ」みたいなイメージがあるかもしれません。しかし、実際はドンパチとは真逆で、細かいポイントを稼ぎ合う繊細な戦いになりやすいです。

というのも、相穴熊は双方の囲い(防御力)が同等ですから、一度リードを許すと逆転が難しい。わずか1失点でも致命傷になりかねないため、細かく神経を遣わざるをえません。

別の言い方をすると、かなり上級者向けの戦型。少なくとも級位者は、相穴熊に手を出さない方がいいでしょう。

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