居飛車にだけ龍を作られ、振り飛車は自陣に「ナマ飛車」が残ったまま……。
振り飛車党の「あるあるw」という声が聞こえてきそう(笑)
こうしたときに狙うべき筋が「龍に飛車のぶっつけ」です。振り飛車党必須の手筋といってよいでしょう。
↑図のように、侵入した龍に自陣の飛車をぶつけて交換を狙う筋は、見たことがあると思います。ただ、本記事で取り上げる「龍に飛車のぶっつけ」は、ニュアンスが少し違います。
【ケース1】相手の龍の働きを悪くする
言葉であれこれ説明するよりも、まずは一つ実例をどうぞ。
居飛車にだけ龍を作られ、振り飛車はナマ飛車が残ったまま。しかし、ここでは振り飛車に好手があります。
自陣に残った飛車を、相手の龍に▲4九飛とぶつけました。もし△同龍と取ってくれれば、「自陣に残っていた飛車」と「相手の攻めの主軸である龍」を交換できますから、かなり得です。
逆に言うと、居飛車側は交換に応じられないケースです。飛車交換できない = いったん龍が逃げることになりますが、ポジショニングが変わって働きが悪くなったりします。
たとえば、美濃囲いや穴熊を攻略する際、飛車(龍)は一段目に置くのが有効なことが多いです。飛車ぶつけによって相手龍を移動させれば、自陣への脅威が緩和される、という具合。
これが「龍に飛車のぶっつけ」です。
【ケース2】飛車交換を確定させるぶっつけ
プロの実戦からもう一つ。2022(令和4)年7月10日放送のNHK杯・西田拓也五段 vs 伊藤匠五段から。
いま、居飛車が△9九角成と香車を取りながら馬を作ったところ。居飛車が好調に見えますが、ここは振り飛車にチャンスが来ています。30秒将棋でも西田五段は逃しませんでした。
▲5九飛がぴったり。仮に△8八龍とかわすと、▲9九飛と馬を取り、△同龍▲3二銀成で振り飛車勝勢です。つまり、この局面では龍は逃げられません。かといって、まさか△6九金とも打てない。これがあるので△9九角成は微妙だったようです。
したがって実戦では、△5九同龍▲同金と進み、自陣に残った飛車を手持ちにした振り飛車が優勢になりました。
【ケース3】飛車を逃がしながら龍にぶつける
続いて、四間飛車 vs △6五歩早仕掛けの一変化から。
ここまで読んできた人なら、次の一手はおわかりでしょう。▲5九飛とぶつけるのが正解です。△8八龍とかわせば、▲7三歩成~▲6五桂が好便。
したがって、▲5九飛のぶつけに△同龍▲同金△5七歩成▲7三歩成△4八と▲同金△7三銀▲6五桂△7八飛▲2六角……。長手順ですが、これが進行の一例で振り飛車よし。
【ケース4】珍しい二度の飛車ぶつけ
中飛車の持久戦からも一つ。振り飛車が桂香得ですが、居飛車は自分だけ龍を作る + 穴熊の堅陣ということで、互いに主張がある局面(↓図)。
飛車を取られるのは嫌ですが、まさか▲7七桂打? などとは打てません。ここは▲5八飛とぶつけてみたい。居飛車は3二金の浮き駒や、端を攻められる筋が残っているので、さすがに飛車交換には応じられません。△8九龍と桂馬を取りながら逃げます(↓図)。
桂馬は取られましたが、ここで攻めのターンが回ってきました。ひとまず▲6四歩△6二歩の交換を入れてから、次のような筋を組み合わせます。
- 端志向の▲1四歩。桂香歩の「端攻めセット」を持っているので、自然な着想
- ▲7三歩成△同角と、相手角を7三に呼んでおいてから▲5九飛と二度目のぶつけ。もし△7八龍と逃げれば、▲7九香で龍・角を串刺し。△8五龍と逃げるのも、▲7九飛が絶好の捌き
【ケース5】飛車・龍の間に挟まっている駒を動かす
最後に私の実戦から。これまでのように、飛車を直接動かしてぶつける筋ではないですが、応用といったところでしょうか。
もちろん振り飛車側が私。相手に龍を作られましたが、左桂が捌けている・▲5三歩のくさびが入っている・▲1一角成が残っている。以上の要素で振り飛車優勢でしょう。
さて、単に▲1一角成でも悪くないですが、ここでは▲5八金左が絶好の一手。
間に挟まっていた6九金を動かし、相手龍にモーションをかけました。これも一種の「龍に飛車のぶっつけ」です。
この局面で飛車交換はトンでもない話ですから、△8五龍とスゴスゴ退散するしかありません。こうして自陣から龍を撃退し、万全を期してから▲1一角成。のちほど▲4八香と攻防にセットする手が抜群の味で、相手の粘りを切り裂きました。