「業務中にマスク着用しなかったら減給」
「コロナワクチンを接種しない奴はクビ」
こんな会社があったら、だいたいの人は超絶ブラックと感じるのではないでしょうか。会社としてマスク着用やワクチン接種を「推奨」するのは一向に構わないけど、「強要」さらには減給や解雇まで持ち出すことはねぇだろ、というのが常識的な感覚かと思います。
ところが、こうしたブラックなことを平気でやっている組織があります。日本将棋連盟です。
日本将棋連盟は、「対局中はマスクを着用するものとする → 規定に反したら反則負け」、つまり「対局中にマスクを着用しなかったら反則負け」というルールを定めたそうです。
半年くらい前の出来事を書きそびれており、今更感がありますが……(^^;) 今回の記事では、このバカげたルールについて考えます。
組織の命令にどこまで従う必要があるのか?
そもそも、所属している組織の命令なら、なんでも従わなければいけないわけではありません。この点について、会社と従業員の雇用関係で考えてみます。
(※日本将棋連盟と棋士は、会社と従業員のような雇用関係ではありません。棋士は確定申告をするので、個人事業主・自営業的な立ち位置のはずです。が、「組織と個人の関係」という点は同じなので、以下に述べる考え方を類推適用してよいと思います)
従業員は「労務を提供」し、会社はその対価として「賃金の支払い」をする。会社と従業員は、こういう契約を結んでいます。この契約関係において必要な場合のみ、会社の指示命令に従う義務が生じます。
たとえば私は、会社から「何時に出勤して仕事を始めなさい」と指示されていますが、この指示には従う必要があります。
これは別に、「時間を守らないのはイケナイことだから」という道徳的な理由ではありません。
というのも、私が好き勝手な時刻に出勤していたら、会社が必要とする(期待する)労務を提供できませんよね。会社が指定した時間で働くことは、「労務の提供」⇔「賃金の支払い」という契約関係を保つために必要なので、従わなければいけないわけ。
もう一例。「酔っぱらった状態で出勤してはいけない」という会社ルールがあったとします。これは正当でしょうか?
正当ですね。酔っぱらった状態で出勤されては、「労務の提供」に差し支えるからです。もっとも、酔った状態で出勤しないのは社会常識なので、わざわざルール化している会社は少ないでしょうが……。
「業務命令権の範囲外」の指示に従う道理はない
これがもし「プライベートでの飲酒を禁ずる」というルールだったら、明らかにやりすぎです。出勤時までに酔いを抜けば「労務の提供」には差し支えないからで、プライベートで飲酒してよい or ダメにまで会社側が直接介入する必要はありません。
「コロナワクチンを接種しない奴はクビ!」
ワクチンを接種しなければ「労務の提供」という行為が達成できないか? そんなことはないですよね。私はコロナワクチンを接種していませんが、何ら問題なく、会社に対して普通に労務を提供しています。
接種後の副反応休みも貰っていない、コロナに罹って休んでもいない、皆勤社員ですぞ(笑)
ワクチンを接種しようがしまいが、「労務の提供」⇔「賃金の支払い」という契約関係には差し支えない。よって、会社がワクチン接種を社員に強要できる権限・根拠はないわけです。別の言い方をすれば、業務命令権の範囲外であると。
強要する根拠がないものを強要 → 従わなければ収入減
話を将棋に戻しまして、日本将棋連盟が定めた「マスクをしなかったら負け」ルールについて考えます。
連盟に所属する棋士の仕事はいろいろありますが、その一つが対局を行うことです。
連盟は、対局中のマスク着用を義務化しました。では、マスクを着用しなければ将棋という競技が成り立たないかというと……
んなこたーない
別にマスクをしなくたって、対局は普通に成り立ちます。法律によりマスク着用が定められているわけでもありませんし、連盟が棋士に対して、対局中のマスク着用を強要する根拠はない、と判断するのが妥当でしょう。
で、問題はここから。
連盟がやっているのは、「強要する根拠がないものを強要し、しかも従わなかった者には罰を与える」という行為です。しかも罰の内容は、「反則負けとする」という過激なもの。
棋士の収入の根源は対局です。対局を行えば対局料が貰え、さらに勝てば賞金もゲット。負ければ対局数も減るので、貰えるカネも減る。勝ち負けは棋士の収入に直結します。つまり連盟は、
「対局中にマスクを着用しなかったら、アンタの収入は減りますよ」
と言っているに等しい。これ、記事冒頭で書いた「業務中にマスク着用しなかったら減給」と同じ構図ではないでしょうか? 非常に問題があると考えます。
日本将棋連盟 組織としての対応力に疑問
関係者の健康を守るためなのでやむなし、との意見もあるでしょう。しかし、公衆衛生のためなら、無条件でどんな制限や罰則も許されるわけではない。繰り返しますが、法的根拠もないのに。
日本将棋連盟は、鬼のように将棋が強い、頭の良い人の集まりですが、このへんの考え方はお粗末な組織のようです。
まあ、連盟の対応がお粗末なのは、今に始まったことではないですけど……。たとえば、数年前の「三浦弘行九段のソフト指し疑惑」の対応でも、個人的には疑問を感じました。
しかし今回のマスクルール、連盟の“黒歴史”にならないか心配です。
太平洋戦争当時、日本人は竹槍で敵を倒す訓練をしていた、という話を聞いたことがあると思います。現代人の目から見れば「そんなアホな」と呆れる話ですが、当時の人は大真面目だったのでしょう。
連盟も別にふざけているわけではなく、「マスクしなかったら負け」のルールを真面目に制定したはずです。しかし後年、戦争と同様、コロナ禍という歴史の振り返りが行われたときに、「こんなワケわからんことをやっていた」つまり黒歴史としてバカにされるのではないでしょうか。
「あのときの状況からすれば、やむを得ない判断だった」とか言い訳すると思いますが……。