振り飛車一筋・KYSの将棋ブログ

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私が心底度肝を抜かれたプロの一手「広瀬の▲3三角」

最近の「神」や「幻」は、ずいぶん安くなったなぁと思うのは、私だけでしょうか?

ネット上では、ちょっとのことで「マジ神」なんてコメントが出てきます。また、テレビのグルメ情報では「幻の○○」が頻繁に登場します。「幻」って単語、一度辞書で調べ直すべきでは……。

藤井棋聖の△8七同飛成の騒がれ方は異常だった

近年は、そんな“安っぽい風潮”が将棋界にも流れ込んできている気がして、なんだかなあ……と思います。

個人的にウンザリしたのが、2020(令和2)年夏の王位戦7番勝負(木村一基王位 vs 藤井聡太棋聖)第4局での、メディアの報じ方やネット上での騒がれ方。藤井棋聖が△8七同飛成という手を指した一局です。

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飛車取りの局面で、藤井棋聖は飛車を逃げずに銀と刺し違えます。この飛車切りが「神の一手」「人間には指せない」「藤井君すげえええええ!」などと騒がれました。

△8七同飛成、強手で好手なのは間違いないです。が、神の一手でもなければ、人間が指せない手でもありません。中継を見ていた私も△8七同飛成だと思いましたし、ブログ等で同様の予想をしている人は他にもいました。アマチュアでも普通に予想できる一手が、神の一手であるはずがないでしょう(笑)

ネット上では、△8七同飛成にかけた『同飛車大学』というダジャレが急上昇ワードになっていました。うーむ、何が面白いのか、さっぱりわからん。

ちなみに、このときの騒がれ方は対戦相手の木村王位も不快だったようで、『将棋世界』に以下のようなやり取りが載っていました。

すると木村は後日、これらの報道についてキッパリと語った。
「△8七同飛成が意外だと報じられていましたけど、それは間違いです。どちらもありますので」。
木村が「間違い」という強いニュアンスで否定することは珍しい。

(『将棋世界』2020年11月号より抜粋)

広瀬五段の▲3三角捨て! 私が度肝を抜かれた一手

……という感じで、私は辛口というか冷めているというか、そういう人間。しかし、そんな私が「ナニコレすっげえええええーー!!」ビクビクッと度肝を抜かれたプロの一手があります。

その一手は、2008(平成20)年の順位戦・広瀬章人五段 vs 村山慈明五段で指されました。
(段位はいずれも当時)

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相穴熊の終盤戦です。
↑図で広瀬五段が指した一手は……

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 ▲3三角!

「えっ」と思いませんか?
相手の桂馬が利いている地点に角を打ちました。

これ、タダです。広瀬五段、相手にタダで角を献上しました。そんな手があるはずない。だから私は、「コレ何かの間違いじゃね? 棋譜の表記ミス?」と思いました。

が、表記ミスにあらず。
広瀬五段の一手は、間違いなく▲3三角です。

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「広瀬の▲3三角」は有名な一手

これ、△3三同桂と取るしかありませんが、そこで▲3二歩と打ちます(↓図)。

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角をタダ捨てした後に、この歩打ち

なぜ▲3三角とタダ捨てしたのでしょうか?

効果の一つは、「3三の地点の埋め立て工事」です。△3三同桂と取らせてこの地点を埋めることで、△2二玉~△3三玉のように上部脱出される手を防いでいます。

もう一つの効果は、「後手玉に王手がかかる形になった」です。具体的に言うと、2一の桂馬を3三に動かすことで2一にスペースができ、▲2一金△同玉▲3一歩成△同玉……のような詰み筋が発生します。2一に桂馬がいると、後手玉を引きずり出すことができないのですね(↓図)。

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▲3三角を打たなかった図。これだと、▲2二金などと打っても△同銀と応じられて後手玉はまったく詰まない

広瀬五段の▲3三角、これぞ神手にふさわしい一手です。このときのインパクトは、十数年経った今でも忘れられません。

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