2020(令和2)年7月16日、藤井聡太七段改め藤井聡太棋聖が誕生しました。史上最年少でのタイトル獲得、本当におめでとうございます。コロナで世の中が沈んでいるなか、勇気や希望をもらえる明るい話題です。
……と、ハッピーな雰囲気の記事にしてもよいのですが、それだと他のブログと変わらないですね(^^;)
ですので、今回の記事では、あえて苦い薬みたいな内容を書いてみます。
若手に立ちはだかる「壁」として頑張ってほしかった
まず、渡辺明三冠が二冠に後退してしまったのは残念。
私が将棋に熱中していた時期って、渡辺の竜王9連覇時代と重なります。ですので、私の感覚では「最強 = 渡辺」という印象が強いですね。羽生の王座戦20連覇を阻んだところなんか、マジカッコよかったわあ。
これまで数々の修羅場を乗り越えてきた経験。タイトル戦の舞台を多く踏み、要領も分かっている。36歳という年齢的にも、心技体のバランスが取れて、脂の乗った将棋が指せる時季だと思います。
それだけに、もう少し若手の前に立ちはだかる「壁」でいてほしかった……というのが一ファンとしての正直な気持ちです。あえて厳しく言うなら、タイトル初挑戦の若手に力でねじ伏せられるのは、百戦錬磨のトップ棋士としていかがなものか……という感じ。
ちなみに、そのあたりは永瀬拓矢二冠にも同様のことがいえます。棋聖戦・王位戦で、連続して藤井七段に挑戦権を持っていかれました。これもあえて悪い表現をするなら、あの2戦で格付けが完了してしまった感があります。
もちろん、藤井新棋聖がそれだけ規格外ということですが……。
将棋のおもしろさが観戦者に伝わっているか?
さて、今後も続くであろう「藤井ブーム」の影響で、将棋という競技にスポットライトが当たり、将棋ファンが増えていく。……となればいいのですが、心配な点もあります。
簡単に言えば、「将棋という競技のおもしろさが、観る人にちゃんと伝わっているか?」という問題。
たとえば、最近のネット中継では、将棋ソフト(AI)の形勢判断の数字(評価値)が表示されますよね。あくまで私の感覚ですが、ネット中継のコメントやツイッター、メディアの報じ方を見ていると、ソフトの評価値だけを見て「どちらが優勢」「これは悪手」「逆転した」と騒いでいる人が多いように見えます。
ようするに観戦者が見ているのは、将棋の中身ではなく評価値というわけ。これ、野球やサッカーにたとえるなら、グラウンド上の選手のプレーを眺めるのではなく、スコアボードの数字だけを見ている感じです。
それって観戦していておもしろいの? という気がします。
たとえば、野球でスコアボードに「4」という数字が刻まれたして、その数字を見るだけでは何もおもしろくない。どんな背景があり、どんな過程や駆け引き、ドラマがあって4点が入ったのか?
そういうところを考察し、理解していくことで、おもしろさ・奥深さ・すごさが感じられると思うのです。
ソフトの評価値を見るだけでは、将棋のおもしろさはわかりません。中継を見る人の数は昔より増えたでしょうが、将棋という競技のおもしろさの本質は、観戦者にちゃんと伝わっているのかな? と疑問を感じます。
もし、おもしろさが伝わっていないのであれば、長い目で見たときに、ファンは根付かないことを意味します。
いまは「藤井ブーム」で将棋が注目されていますが、それもいつかは終わります。そのとき、しっかりとファンが根付いていなければ、将棋の人気は凋落するばかりです。
競技の魅力自体がファンに伝わる施策を
ソフトの評価値とか、将棋めしとか、そういう「見えやすい部分」ばかりが注目されているようでは、将棋界の未来は明るくないでしょう。将棋という競技自体の魅力が、もっと伝わるような施策が必要です。
早い話、藤井棋聖というスターが存在しなかったとしても、将棋人気が出る方向に持っていかなければいけません。
たとえばですが、私が好きな棋士の一人に勝又清和七段がいます。
勝又七段は、いわゆるトーナメントプロとしてはパッとしません。しかし、プロの将棋のおもしろさ・奥深さ・すごさを、アマチュアにもわかるように噛み砕いて伝えるのが抜群に上手いです。雑誌の連載や著書を読んで、「へぇ~なるほど」といつも感心していました。
プロ棋士の仕事は、勝負の世界で戦うことだけではありません。勝又七段のように、将棋のおもしろさをわかりやすく発信するのも、大きな貢献だと思います。
医師という仕事でたとえるなら、医師免許を持っていても、病院に勤めて患者さんを治療するだけが選択肢ではないですよね。マスコミに就職して、医療知識を活かした記事を世の中に発信し、社会に貢献する方法もあります。政治家になり、医師の観点を活かして、現在の医療問題に取り組むという道もあるでしょう。
それと同じように、プロ棋士にも将棋の魅力を発信するための方法が、勝負の場以外にもたくさんあるべきだと思います。その方法を探していくことが、長い目で見たときに、将棋人気を左右するでしょう。
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