対局者両名がいずれも黒系の服を着ているのを見て、『魔女の宅急便』のオソノさんが「黒は女を美しく見せるんだから」と言っていたのを思い出したのは、私だけだろうか?
うん、アンタだけだね
2021(令和3)年3月28日、来期NHK杯の女流出場枠を懸けた、西山朋佳女流三冠(奨励会三段)vs 里見香奈女流四冠の頂上決戦が放映されました。今回の記事では、私なりに気になった場面を振り返ってみます。
ついにNHK杯でもAI評価値の表示が始まった!
振り飛車党同士の対決となった本局。先手・西山三冠の中飛車に、後手・里見四冠は向かい飛車で対抗。予想通りの相振り飛車になりました。
対局が始まってしばらくすると、テレビ画面の上部に
なんか出た
表示されたのは、将棋中継では最近すっかりお馴染みになったAI評価値。おお~。ついにNHK杯でも、AI評価値を取り入れる時代になりましたか。
中継画面にAI評価値を表示することは、賛否両論あるようですね。ウチの妻は、現在の状況がわかりやすいということで「賛」。対して私は、対局者目線で局面を考えたいタイプなので、形勢判断を表示されると興醒めするところがあるため、どちらかと言えば「否」。
▲6五銀とぶつける前に▲7五角と一捻り
西山三冠が5筋から動いたところで、里見四冠は向かい飛車を5筋にカムバックさせ、相中飛車に。……と思ったら、しばらくして里見四冠が今度は3筋に飛車を振り直す。里見四冠の飛車が走り回って疲れていないか心配です(笑)
そして、迎えたのが↓の局面。
▲6五銀のぶつけを見せて、西山三冠がとりあえずいつでも動ける態勢を整えています。開戦を躊躇していると、里見四冠から△1三桂~△1五歩~△2五桂という順が来るので、西山三冠が先攻しそうな雰囲気。
……と思っていると、西山三冠は▲7五角と出ました。
ここで▲6五銀のぶつけは微妙と見たか。具体的には、▲6五銀に△2二角(↓図)と対応されると、動いた効果があるかどうか。いや、動かずに待っていると、里見四冠の攻撃陣がどんどん迫ってくるので、西山三冠としては動かざるをえないんですが。
↑図から攻め続けるなら、▲5四銀△同飛▲4五銀くらいでしょうか(↓図)。
しかし、↑図から△8四飛と回られると、次に△8七飛成があります(↓図)。この陣形で飛車を成り込まれると、9七角や6九金が龍にいじめられそうですね。
というわけで、実戦に戻って西山三冠の▲7五角は、この最後の△8四飛の変化を消しつつ、場合によっては端攻めも見せた一手なのだと思います。いや、私の勝手な解釈なので、間違っていたらすみません(^^;)
おそらく▲9三歩からの端攻めはうまくいかない
▲7五角と出た西山三冠。
次の手番がきたところで、▲9四歩△同歩と端を突き捨てておいてから、▲6五銀とぶつけました(↓図)。
▲6五銀とぶつけるところでは、▲9三歩と端攻めをする手もありそうでしたが……(↓図)
個人的な見解ですが、この形では、おそらく▲9三歩は成功しないと思います。▲9三歩の垂れ歩は△同香と取り、▲8五桂に△8四歩と受けられてどうか?
西山陣としては、端攻めをすると桂馬を渡す公算が大きいため、△3六歩▲同歩△2四桂みたいな手が嫌味ですね。
相振りで端攻めをする場合は、最低限、7筋か8筋の歩を切ったうえで、飛車を7六か8六に置きたいもの。本局では、西山三冠は7~8筋の歩が伸びておらず、飛車も5八にいるので、端攻めの条件が整っているとは言い難い。
しかも、角の位置が7五なので、いつでも△7四歩と突かれて▲8六角とバックを余儀なくされる順が見えています(=6六には銀がいるので引けない)。具体例としては、▲9四歩△同歩▲9三歩と垂らした瞬間に△7四歩とか。
以上の理由で、西山三冠は中央志向の▲6五銀(実戦の順)を選んだと推測します。
アマチュア的には自陣龍の方がわかりやすそう
さて、いよいよ本格的に開戦。
西山三冠が中央と端の両方を絡めて攻撃しますが、その合間を縫って、里見四冠に△3六歩の反撃手が入りました。
この手を境に、徐々に里見四冠ペースへ。西山三冠、攻めがつながるかどうか微妙な雰囲気で、考慮時間を大量に投入。ちょっと苦しいかも。
そして、西山三冠が自陣に駒を投入して頑強な抵抗姿勢を見せた↓の場面。
ここから里見四冠は△5六歩と突き出して、攻め勝つ方針を表明しました。
これは、私のような攻めの技術が未熟な人間には指せないですね。攻めがスパッと決まらず、不必要に相手に駒を渡してしまい、それで反撃を喰らって逆転される。そんな感じの未来が見えるからです(笑)
代えて、私みたいなアマチュア二段前後の人間なら、△9四飛成とした方がわかりやすいと思います。
自玉を安全にしてから、ゆっくり攻める。そういう展開になってはタマランので、先手は何か暴れる必要があります。しかし、たとえば▲4八金左なら、△3八銀成▲同銀△5六歩くらいでよいでしょう(↓図)。
「自分が攻める」となると、特にアマチュアでは、攻め損ないなどのミスがじゅうぶん起こりえます。この局面では、「相手に攻めさせて丁寧に対応し、自爆を誘う」方が、間違いの起きにくい勝ち方だと思います。
西山三冠が辛抱の後に勝負手連発! 大逆転に成功
さて、考察はここまでにしましょう。
この後、苦しかった西山三冠が一瞬のスキを逃さぬ勝負手を放ち、それが通って逆転に成功。里見四冠は、大駒3枚が一瞬ほとんど働きのない窒息状態になったのが痛かった。受けがなくなった里見四冠、最後は王手ラッシュで詰ましに行きましたが、不詰めを読み切ってキッチリ対応した西山三冠の勝ち。
というわけで、前期に続いて、今期も西山三冠がNHK杯の出場権を得ました。奨励会の年齢制限も迫っており、プレッシャーで大変な日々だと思いますが、力強い振り飛車を全国放送で披露してくれることを期待します。
関連記事
西山朋佳女流三冠がNHK杯に登場【2021/5/9/NHK杯】