振り飛車一筋・KYSの将棋ブログ

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ウチの妻も大興奮! 木村九段が必殺の合い駒で藤井二冠を撃破!

2020(令和2)年11月22日、午前中に家族で外出し、11時半くらいに帰宅。テレビをつけて適当にチャンネルを回していると、教育テレビでNHK将棋トーナメントが。

対戦カードは藤井聡太二冠 vs 木村一基九段。解説は羽生善治九段。

妻「あっ、コレ見たい!」

ウチの妻は、苦労人の木村九段が、今夏の王位戦で藤井棋聖(当時)に4タテを喰らったのに同情したらしく、先日の王将戦リーグ・藤井 vs 木村戦でも、木村九段を応援していました。それも木村九段が負けましたが……。

妻からすると、「木村先生ガンバって! なんとか藤井二冠に1勝を!」という気持ちなのです。

劣勢の藤井二冠 △7八銀の非常手段に!

さて、テレビをつけた場面では(たぶん)木村九段優勢。藤井玉を確実に追い詰めていく木村九段。

対する藤井二冠、木村九段の包囲網に穴をあけようと非常手段に出る! それが△7八銀(↓図)。

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銀のタダ捨て 一見狙いがわからない手だが……

これは、木村九段の寄せの拠点である3五銀を除去する狙いの手ですね。この手の銀捨ては、矢倉戦でよく出てくる手筋です。↓図をご覧ください。

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矢倉戦でよくある手筋 知らなかった人は覚えて帰ろう

△7九銀と放り込んで、▲同玉なら△3九飛、▲同金なら△3八飛。いずれも王手銀取りで、3筋の銀を抜くことができます。藤井二冠の△7八銀も、このテクニックです。

王手銀取りをかけられた木村九段 どう凌ぐ?

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再掲 藤井二冠が銀をタダ捨てした場面

さて、藤井二冠の△7八銀(↑図)に対して、木村九段は▲同金。▲同玉は△6八飛と打たれて詰んでしまうので、▲同金は当然ですね。

そこで△3七飛と王手された局面が問題。

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王手銀取りをどう処置する?

▲7七銀打などの合い駒では、△3五飛成とされたときに次の攻め手が難しい。ですので、常識的に考えれば▲4七歩と合い駒し、△3五飛成に▲4六銀と打って攻めていく。ようするに、「攻めの拠点を残すための合い駒」が求められるわけです。

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まず、6五馬の利きを活かして合い駒をし……

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合い駒した4七歩を攻めの拠点にする

さてこの場面、木村九段の選択は▲4七歩でしょうか?

かつて羽生棋王が繰り出した「必殺の合い駒」とは?

ここでふと私の脳裏に浮かんだのが、解説の羽生九段がかつて放った一手。↓図をご覧ください。

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便宜上先後逆。1994年2月 棋王戦5番勝負から

↑の図、△1九飛と王手銀取りをかけられたところなのですが、ここで羽生棋王(当時)が繰り出した必殺の合い駒が↓図。

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羽生棋王の指し手は▲4九角 ふおおおおっ!?

なんと▲4九角とタダの地点に合い駒! もちろんこれはウッカリなどではなく(笑)ちゃんと意図があります。

この場面、普通に▲6九歩の合い駒だと、△1六飛成と銀を取られてしまいます。つまり、1六銀に連絡をつけるために▲4九角と打ったのですね。

実戦では、以下△4九同飛成▲6九歩と進んで羽生勝ち。1六銀さえ取られなければ、角をタダで渡しても支障なしです。角をタダで捨てての合い駒は、非常にインパクトがありました。

ふおおおおっ!? 私も初めて見た「馬の中合い」

話を今回のNHK杯に戻しましょう。

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再掲 王手銀取りをかけられた場面

かつて羽生棋王が指した角のタダ捨て、この場面に当てはめるなら▲4七馬です。4七馬を取ってくれれば、3五銀を抜かれずに済みますが、でも馬ですぜ? タダ捨てはさすがになあ……。

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ド派手な「馬の中合い」だが、こんな手は見たことない
妻「木村先生どう指すの?」
私「▲4七歩かなあ。あと他には……▲4七馬とか? でもさすがに▲4七馬はねぇよなぁ」

と私が呟いた直後。

木村九段 ▲4七馬!

はああああああ!?
マジでやったよ!

しかし、冷静に見ると藤井二冠は困ってるのか?

△3五飛成と銀を取れば、そこで▲3六歩と打つ。その変化は、△3七飛の王手に▲4七歩~▲4六銀と進めた場合(=先ほど『常識的に考えれば』と書いた手順)に比べて、手持ちの銀を温存できています。この差はデカい。

妻「えっ、えっ!? これタダじゃないの!?」

テレビの前では妻が混乱していますが、「中合い」などという高度なテクニックを解説してもわかるまい。

私「うん、馬がタダなんだけどね。あー、なんて説明すればいいんだコレ。うーん……アレだ、囮。囮みたいなもんだわ」

私も、しどろもどろな説明しかできない。初心者に説明することの難しさよ。

最後は基本に忠実な手で仕留める 妻大喜び!

さて藤井二冠、木村九段の▲4七馬に対し、結局△同飛成。そこで木村九段が▲7七銀打と合い駒したのが↓図。

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▲4七馬と捨てた効果で3五銀が助かった

この場面、木村玉は安全な状態。
藤井二冠は、次に▲2二銀や▲4四歩を喰らったら終わり。よって△3四金と桂馬を除去するしかないのですが、そこで▲2二銀と捨てたのが「玉は下段に落とせ」の格言を忠実に守った手(↓図)。

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玉は下段に落とせ。こういう基本の手を逃すと、せっかくの▲4七馬が無に帰す

△2二同玉なら▲3四銀と金を取って寄り。といって△4三玉とかわしても、▲4四歩などの手があってピッタリ寄る。うーん、これは藤井二冠に抵抗の余地なし。決まりですね。

妻「これ木村先生勝てる!?」
私「木村勝ちだよ。ここからなら俺でも間違えないから(笑)」
妻「いやーすごい! 木村先生よく頑張った!」
私「さっき馬をタダで捨てたのがスゴイ手だったね。あんな手は滅多に見れないよ」

……などと話しているうちに、藤井二冠が投了しました。妻、大興奮。「木村先生すごい!」を連呼していました。

いやー、それにしても▲4七馬のタダ捨て。華麗に決まったからよかったのですが、万が一読み抜けがあれば、ひどいことになります。思いついても、落とし穴が怖くて、実際に指す勇気はなかなか出ないのでは。

持ち時間がたくさんあれば、▲4七歩などの無難な手を深く検討するはずです。テレビ将棋で持ち時間が短いからこそ、逆に思い切って決断できたのではないでしょうか。

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