2020(令和2)年10月6日、振り飛車党の私にとっては注目の一戦。王座戦第4局、永瀬拓矢王座 vs 久保利明九段。1勝2敗と、角番に追い込まれた振り飛車党総裁・久保九段が凌げるか? それともリーチをかけた永瀬王座(実は元振り飛車党)が押し切って防衛するか?
戦型は、先手・久保九段の四間飛車。
対する後手・永瀬王座の作戦は、オーソドックスに居飛車穴熊か?……と思っていたところ、永瀬王座は△5五角と飛び出す手を採用しました(↓図)。
振り飛車の4六歩を狙って△5五角と飛び出す。確か、2000~2005年くらいにあった指し方だと記憶しています。
角道を止める四間飛車が廃れ気味の現在、この△5五角という手法を知っている人は少ないでしょう。というわけで、今回の記事では、この指し方の狙いなどを簡単に解説したいと思います。
△5五角と飛び出すタイミングには2種類ある
この△5五角と飛び出すタイミングですが、理想としては次のどちらかです。
① 振り飛車の玉が4八にいる
② 振り飛車の左金が一段目(6九)にいる
なぜでしょうか?
理由や狙いを簡単に解説していきます。
居飛車の狙い筋① ▲4七金と悪形に誘っての急戦
まず、「① 振り飛車の玉が4八にいる」ときに△5五角と飛び出す手。一言でいえば、これは急戦を狙いにいく順です。
↑図から、振り飛車側は歩を取られないように▲4七金と上がるのが自然。そこで、△7五歩▲同歩△6四銀と開戦します。
振り飛車の玉がまだ4八にいて戦場に近いので、こうやって仕掛ける順があるのですね。ここで疑問に感じるのが、なぜわざわざ△5五角と飛び出して▲4七金と上がらせたのか? ですが……
- ▲4七金と上がらせたことで、将来の△5五桂・△3五桂を発生させる
- 振り飛車玉の左脇があくので、左辺からの攻撃が効果的になる
こういう狙いがあるのです。
この急戦のポイントは、振り飛車の玉が4八という「戦場の近く」にいること。たとえば、3九玉ともう一路戦場から遠ざかっていると、これは相当に居飛車側の分が悪い戦いです。
以上が、「① 振り飛車の玉が4八にいる」ときに△5五角と飛び出す理由。
居飛車の狙い筋② 持久戦にして堅さ勝ちする
もう一つ、「② 振り飛車の左金が一段目(6九)にいる」ときに△5五角と飛び出す手を解説しましょう。これは一言でいえば、持久戦での堅さ勝ちを目指す順です。
この手に対して、一番自然なのは▲4七銀と上がって歩を守る手。
しかし、この▲4七銀と上がらせるのが居飛車の狙い。というのは、この▲4七銀によって、振り飛車側は通常の美濃囲いにできなくなっています。つまり、振り飛車側は堅陣に組めない。
振り飛車側が堅陣に組めない欠点をついて、ここから居飛車は、△4四歩と突いて持久戦を目指します。囲い合いになると、居飛車だけが左美濃や穴熊などの堅陣に組めます。
これが△5五角と飛び出す手の狙いです。
居飛車側のポイントは、△5五角に対して▲4七金と指させないこと。振り飛車の左金が5八にいると、▲4七金という自然な形で歩を守ることができます。その形なら、高美濃や銀冠に組む余地が残っているので、▲4七銀と上がるのとは話が全然違うのですね。
以上が、「② 振り飛車の左金が一段目(6九)にいる」ときに△5五角と飛び出す理由です。
今回の永瀬・久保戦はやや特殊な形といえる?
駆け足になりましたが、△5五角と飛び出すタイミングは、
- 振り飛車の玉が4八にいる
- 振り飛車の左金が一段目(6九)にいる
どちらかが理想ということです。ところが今回の王座戦第4局、△5五角と飛び出した図を見てください。
すでに振り飛車の玉は3九に、左金は5八にいますよね。久保九段は、▲4七金と上がって歩を守りました。
ここから居飛車が△7五歩▲同歩△6四銀と急戦に行くのは、すでに振り飛車が▲3九玉と戦場から遠ざかっているので、ちょっと無理気味。かといって、持久戦模様にして囲い合いにしても、振り飛車も堅陣に組める。
となると、そもそも△5五角と飛び出した手の効果があまりないような……。いや、もちろん永瀬王座は事前にじゅうぶんな研究をして、その形でも居飛車やれると判断して採用したのでしょう。
ただ、我々アマチュアレベルだと、居飛車側が神経を使わされて苦労する展開になりやすいと思います。今回の永瀬・久保戦でも、振り飛車が仕掛けて、居飛車がそれに対応する流れでしたし……。というわけで、今回の記事で説明したようなタイミングで△5五角と飛び出すことをオススメします。
(参考文献『最前線物語2』『島ノート』)